論文レビュー:ケース・スタディ研究の理論構築
2015/12/28
Building Theories from Case Study Research
Eisenhardt, K. M.
Academy of Management Journal(1989)
Abstract
この論文は、リサーチ・クエスチョンの特定から結論を導くところまで、ケース・スタディによる理論構築のプロセスを述べる。プロセスの特徴の中には、問題定義や妥当性の構築のように仮説検証研究に似ているものもあれば、ケース中の分析(within-case analysis)や論理複製(replication logic)のように帰納的なケース・スタディに固有の特徴もある。全体として、この論文で述べるプロセスは、高い反復性を持ち、データと強く結びついている。この研究方法は、特に新しい研究分野に適している。結果として得られる理論は、しばしば新しく、検証可能で、実証的に正しい。最後に、既存の枠組みを超える示唆、有用な理論の検証(たとえば、最小前提の原則(parsimony)や論理的整合性)、そして説得力のある根拠は、ケース・スタディ研究を評価する主要な基準である。
ケース・スタディ研究から理論構築するプロセス
①Getting Started
②Selecting Cases
③Crafting Instruments and Protocols
④Entering the Field
⑤Analyzing Data
⑥Shaping Hypotheses
⑦Enfolding Literature
⑧Reaching Closure
(参考)ケース・スタディ研究の妥当性を判断する4つの基準
Yin (1994) は、ケース・スタディ研究が妥当がどうかを判断する4つの基準が挙げています。
①構成概念妥当性(construct validation):構成概念に対して、正確な操作的尺度が確立されている程度(データと概念の間の関係)
② 内的妥当性(internal validation):ある変数間の関係が、他の変数によって生じている擬似的な関係でないものとして確立されている程度(他の理論による説明がどれだけ排除できているか)
③外的妥当性(generalibity):ある変数間の関係が、他の事例にも一般化できる程度
④信頼性:同様の手続きで研究を行ったとき、同じ結果が得られる程度(出所)「ケース・スタディの方法」(著:ロバート K. イン/翻訳:近藤公彦, 千倉書房)
はじめて聞く言葉ばかりなので少しわかりやすく説明すると、①構成概念妥当性は、たとえば「トップマネジメントへの権力集中度」のような直接目には見えない概念を説明するための要素が、正確に表せているといえるかということ。②内的妥当性は、「AならばB」という因果関係があると主張したいとき、そこに「CならばB」という関係がないといえること。たとえば、「人気があるアーティストを呼んだからイベントの集客が良かった」という因果関係を主張したいとき、実は「無料だから集客が良かった」という関係が存在していると内的妥当性があるとはいえない。③外的妥当性とは、「AならばB」という関係が、他の場合にも当てはまるかどうかである。ケース・スタディ研究では特定の事例を研究対象とするため、外的妥当性を満たすことが難しく、インタビューデータを異なる立場の複数人から集めるなど工夫が必要である。