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論文レビュー:イノベーションのジレンマ

      2015/12/28

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Customer Power, Strategic Investment, and The Failure of Leading Firms

Christensen, C. M. and Bower, J. L.
Strategic Management Journal(1996)

Abstract

ある時点では経営がうまくいっている企業が、技術革新に直面すると業界のリーダー的ポジションを失うのはなぜだろうか。この論文では、ディスクドライブ業界の研究に基づいて、顧客のニーズが技術革新に必要な資源配分の決定要因となるーー資源依存理論(theories of resource dependence)と資源配分理論(theories of esource allocation)の間をつなぐモデルであるーーことを示す。既存企業は、技術が既存顧客のニーズに対応するために必要とされるときはいつでも、時には革新的なものも含め、あらゆる場面で技術の進歩に向けて業界をリードする。一方、同じ企業が、新興市場においてしか有益でない単純な技術の開発に失敗する。なぜならば、技術革新の推進力が滞り、交渉力がある顧客をターゲットとするプログラムに資源が配分されるからである。顧客がまだ存在しない技術をターゲットとするプロジェクトは、推進力と資源の不足により勢いがなくなる。技術の進歩の度合いが市場で求められるパフォーマンスを上回るため、当初は新興市場でしか用いられない技術が、やがて主流市場を凌駕する。新規参入企業が、確立された企業に勝利することもあるのだ。

破壊的変化に直面した既存企業の資源配分プロセスモデル

  1. 破壊的な技術は、新規参入企業ではなく既存の業界トップ企業で開発される。しかも、マネージャー主導の開発プロジェクトではなく、在庫部品を用いて行われる。
  2. 次に、マーケティング部署が既存製品の主要顧客にプロトタイプを見せて新製品の評価を求めることにより、テストマーケティングを行う。しかし、既存製品を求めて高性能を求めない顧客は、破壊的技術に関心を示さない。結果として、マーケティングマネージャーは破壊的技術を支援しようとせず悲観的な売上予測を立てるため、資源配分が削減されることになる。
  3. 目の前の顧客ニーズに応えるため、マーケティングマネージャーは持続的技術のプロジェクトに投資しようとする。持続的技術への投資は費用がより多くかかるが、顧客が目の前にいるため、破壊的技術への投資よりもリスクが少ないように感じるのだ。
  4. 破壊的な製品を開発するために、既存企業でストレスを抱えた技術者チームを加えた新会社が設立される。
  5. ひとたび新興企業が新しい市場に事業基盤を見つけると、技術を持続的に改善することにより、市場ニーズよりも素早くディスク容量を増やすことができると気づく。確立された企業が美味しくないと感じる市場規模を、新興企業は拡大の可能性がある魅力的な市場として見ようとする。確立された企業の顧客は、新しい技術による小さなディスクドライブを安っぽいものととらえる。
  6. 小さいモデルが既存市場を席巻し始めると、当初市場を支配していた新興メーカーは、自身のマーケットシェアを守るためにプロトタイプを紹介する。

この論文から得られた知見

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  • イノベーションのジレンマは技術革新それ自体に起こるのではなく、人事・組織の問題、つまり、マーケティング・マネージャーが既存顧客に対する安定的な業績を優先するため、新しい技術に資源配分が行われないという問題である。
  • 資源依存論によれば、経営者は自由に意思決定できるわけではなく、外部のステークホルダーの意見に従わざるをえない。
  • 既存顧客向けの安定的なプロジェクトにはマネージャーが資源配分するため、無難なプロジェクトしか行わなくなる傾向がある。
  • 既存企業が技術革新に直面したとき、失敗の原因は技術を開発できなかったことではなく、顧客の声を慎重に聞きすぎたことにある。

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