ノラ猫ism

今日もノラ猫のように、凛々しくハングリーに、生きる

リフォーム詐欺と、おじいちゃんのプライド

      2015/12/22

IMG_1228実家が大変なことになっていたーー。家の周りに足場が張り巡らされ、目つきの悪い作業員が出入りしている。

実家からの電話

仕事中、携帯電話が鳴った。実家からだ。90歳を越える祖母とそれに準ずる祖父がいるので、実家からの緊急を知らせる電話を取るときは、自然と緊張する。
「もしもし、どうしたの?」
電話の主は、実家で祖父母と一緒に暮らす叔母だった。
「家が大変なことになってるの。実はね……」

事件のあらまし

11月下旬のある日の午前中、営業マンが、祖父のもとを訪問したのがはじまりだった。
「2軒先の家の工事をしている者ですが、お宅の屋根壊れていますよ。」
庭で草むしりをしていた祖父にそう告げて応接間に通された営業マンの男は、2時間以上、いかに実家の屋根が危機的状況であるかについて語り、祖父に約200万円の契約にハンコを押させた。

祖父は、最初は屋根の修理、数日後に雨樋の修理、そのまた数日後に外壁の修理と次々に契約を結ばされ、支払金額は合計600万円以上になっていた。さすがに不安になった祖父が、はじめに聞いた2軒先の家に行ってみたらーー、その場所から実家の屋根は決して見えないことを知った。

そのとき、祖父は手付金8万円を振り込み、実家にはすでに工事用の足場が組まれていた。

前職で一緒に仕事をしていた弁護士さんに事情を話して、アドバイスを聞いてみた。
「まず、内容証明を出して、契約の解除と足場の撤去を求めるのが良いと思います。弁護士が出すとお金がかかってしまうので、自分で出すしてみてはいかがでしょう?」
あなたならきっと出来ますよ……という、知人ならではの暗黙の励ましもいただいたので、自分でやってみることにした。

はじめての内容証明郵便

ずいぶん前に見た『カバチタレ』という行政書士を主人公にしたドラマで、「内容証明」という言葉は知っていた。法律の勉強をしたこともあり、実は10年くらい前に行政書士の資格を取った。とはいえ、ペーパー行政書士免許になっており、もちろん実務はやったことがない。

google先生に契約を解除する場合の内容証明の書き方を聞いて、見よう見まねで作ってみた。ルールに従って20文字×26行に必要記載事項を書いて、せっかくなのでフォントはデザインがカッコ良く見える「ヒラギノ角ゴ」にした。印刷して妻に見せたら、裁判所が出す文書みたいな威圧感があって良いと思うよとのことなので、自信を持って3枚コピーして郵便局に持って行った。待つこと10分、内容のチェックも無事に通過し、発信することができた。そのあと、内容証明を拒絶拒否されたときのために、同じ文面をいちおう先方業者にFAXでも送り、任務完了。184を押して電話も掛けてみたのですが、非通知だとつながらない設定になっていたので、こちらは諦めた。

ラスボスの登場

投函して2、3日して、内容証明郵便が無事に相手の手に渡ったことを証明する手紙が届いた。その直後、悪徳リフォーム業者の営業マンから電話が掛かってきた。
「私は契約のことはよく分からないので、社長からお話させてください。」
いよいよ、ラスボスの登場に鼓動が高まる。

数分後、携帯電話に着信が来た。画面には、はじめて見る番号が映し出された。まちがいない!悪徳リフォーム業者の社長だ。身構えて通話ボタンを押すが、優しい声・・・。
「もしもし、○○株式会社の△△です。このたびはご迷惑をおかけしたようですので、足場をすぐに撤去して、手付金も返還させていただきます。」
優しそうで誠実な雰囲気の声。むしろ良い人にすら感じる対応・・・。それらが逆に怖い。これは、お年寄り、騙されるのが分かる。足場の撤去を無料で行い、契約時に渡した手付金も返してくれることになった。

失われたもの

祖父は、中学校で社会の先生を定年まで勤め上げ、生徒にも人気で一生懸命に生きてきた。小学生の僕に将棋と囲碁を教えてくれたり、歴史マンガを買ってくれたり、織田信長がなぜ天下統一の途上で謀反にあったのか?について語り合ったりした。今は、認知症の妻(僕の祖母)を支えて静かに暮らしている。祖母がどんなになっても、決してボケ老人扱いはせず、一人の大切な人として尊重している姿を見て、心から立派な人だなと思った。

なぜ、騙されなければいけないのか?

騙し取られるお金を持っている、騙される、この2つの条件を満たす高齢者の多くは、一生懸命に生きてきた人なのではないだろうか。お金は戻ってくるかもしれないけれど、失われてしまった祖父のプライドは戻らない。

騙される方も悪いなんていう理屈は通るわけがないし、景気や社会のせいにする道理もない。こういうビジネスをする人たちを許せないという気持ちは、変わることがないだろう。

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